私が好きな能の三本指に入る曲に、【井筒】がある。
物語⇒旅僧が在原寺に立ち寄り、業平とその妻を弔っていた。
なきだにものの寂しき秋の夜の
人目まれなる古寺のすると何処からとも無く女(前シテ)が現れ、業平の古塚を詣でながら業平と紀有常の娘の生前の由縁を語る。詳しさのあまり僧が問いただすと、自分こそ紀有常の娘(井筒の女)であると名乗って、井筒の陰に消えていく。月夜に僧がまどろんでいると、業平の形見の直衣を身に着けた井筒の女の霊(後シテ)が現れ、業平になりきって舞を舞う。
形見の直衣身に触れて
懐かしや昔男にうつり舞/
さながら見みえしむかし男の
かむり直衣は女とも見えず
男なりけり業平の面影/(
序ノ舞)
が、やがて女の姿はおぼろげにうすれ、僧は夢から覚める。
この能、“能らしい”と云われる複雑な構成となっている。シテの男性が井筒の女に扮する。その女が業平という男性に憑かれるのだから、男→女→男、ということになる。そのような複雑さも違和感無く、秋の夜の荒れ果てた古寺の井筒の前へ意識をスリップしてしまう。
その能【井筒】は、昔は素謡のLPや、お囃子が入った演能形式のLPも出ていた。が、残念ながら今では【井筒】のCDは見当たらない。しかしDVDで能【井筒】が楽しめる。NHK収録で昭和52(1977)年2月27日に放映された映像のDVD化である。喜多六平太記念能楽堂の落ち着いた色調の檜舞台が格調高く、この能にふさわしい。シテは観世寿夫師である。誠に美しく気品に満ちた舞で、収録時間84分間があっという間である。惜しいのはアイが省略されていることだろう。アイ狂言まで収録したら、2時間近くになって収まらないとしたら2枚組みでも良かったろうに(元々収録されていなかったのかもしれないが)。
いづれも私の稽古流派の宝生流ではなく観世流であるが、鑑賞には流派の枠を超えて楽しめる。
↓添付写真は、そのDVDと素謡のLP。
LP(観世元正、観世元昭)は昭和50(1975)年キングレコード発売(KHA18)¥2,000。
DVDは平成18年NHKエンタープライズ発売。シテ;観世寿夫、ワキ;宝生閑、笛;藤田大五郎、小鼓;大倉長十郎、大鼓;瀬尾乃武 他(¥4,700+税)
by
HP【舞!組曲】www.photoland-aris.com/myanmar/
↓写真;LP 能【井筒】。素謡ではなく、能形式である。シテ;梅若景英、ワキ;宝生閑、笛;一噌仙幸、小鼓;北村治、大鼓;亀井忠雄 他(¥2,000)
昭和52(1977)年 東芝EMI(TH-60039)発売
ジャケットの写真が大変に美しい。能【井筒】のイメージにピッタリの写真だ。
posted by gagaku at 20:38|
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能楽・雅楽
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